2020年4月に120年ぶりとなる民法の改正が行われ、賃貸借契約に関する民法のルールも変わりました。
今回は改正民法で新設された賃貸借契約の賃借人の原状回復義務について改正前と改正後でどのように変わったのかを取り上げると共に原状回復の基本的な考え方をおさらい出来ればと思います。
・第六百二十一条
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
(※法務省/民法の一部を改正する法律の概要 引用)
改正民法に新設された原状回復義務についての条項は上記の内容になります。
今までの民法では、賃貸借契約終了後の原状回復の費用負担について明記されておらず原状回復をめぐるトラブルが度々発生していました。
こうしたトラブルの対処の為、国土交通省は1998年に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を定め、東京都では2004年に「賃貸住宅紛争防止条例」という東京ルールと呼ばれる原状回復についてのルールを過去の判例などを基に定めました。
大まかに賃貸人と賃借人の負担区分を分けると以下のようになります。
・通常使用や経年劣化による損耗は賃貸人負担
・故意過失や善管注意義務違反等による損耗は賃借人負担
上記を見てわかる通り民法改正によって新設された原状回復義務の規定の内容は
前述の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」や「紛争防止条例」で定義していた内容と変わりません。
大きく変わった点は法律としてルールを定めたという点にあります。
今までのガイドラインや紛争防止条例はあくまで過去の判例を基にした指針に過ぎず法的な強制力は無かったためトラブルは依然として発生してしまっておりました。
ですが今回の民法改正により、今までの原状回復費用負担の考え方が法律上の基準となりガイドラインに法律という後ろ盾が出来たことでガイドラインの存在意義が大きくなりました。
よって、改正民法により原状回復義務の範囲が明確化されたことで、賃借人が負うべき原状回復義務を法律を基に課すことが可能になった反面、賃借人が負担するべきでない原状回復範囲を定める特約やその費用請求など、必要性や合理性に欠ける内容に対するハードルは高くなりました。
賃借人に対し通常損耗の原状回復特約を有効にすることが可能になる用件は以下の3つです。
・特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること。
・賃借人が特約によって原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること。
・賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること。
(※国土交通省/原状回復のトラブルをめぐるガイドライン 引用)
通常損耗の特約自体は有効になる可能性はありますが、上記の条件が満たされず賃借人が納得しない限りは一方的に通常損耗の原状回復義務を負わせることは出来ません。
今回の民法改正によって原状回復義務の範囲は変わっていませんが
賃貸人・賃借人共に原状回復の考え方について十分理解した上でお部屋の契約を行うことが今まで以上に重要になったのかと思います。
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