不動産取引をしたとき、登記事項証明書を取得したとき、よく目にする「抵当権」。
この「抵当権」とはどんなものでしょうか。
●抵当権はどんな権利なの
「抵当権」は担保権と呼ばれるものの一つで、俗っぽく言うと借金のカタです。
質屋さんを想像してみてください。
質屋さんからお金を借りる場合、質草(例:宝石等)を持って行き、お金を借ります。
そして、この質草が借金のカタです。
しかし、抵当権には質屋さんと決定的に違うところがあります!!
それを知るため、まずは民法の条文を確認してみましょう。
民法では、抵当権は以下のように記載がされています。
民法369条(抵当権の内容)※2項省略
この条文を言い換えてみると、
こんな感じになります。
そして、この「占有を移転しないで」というのが抵当権の特徴です。
「占有を移転しないで」とは、ここでは「そのまま使用させること」と考えてください。
つまり、質屋さんの質草と違い、自分で不動産を使っていながらお金を借りられるのです。
●こんな感じに活用します
今度は具体的に住宅ローンで考えてみましょう。
丙さんが甲銀行から融資を受けて、A不動産を購入したとします。
この場合、甲銀行は丙さんが購入したばかりのA不動産に抵当権を設定します。
そして、ここで抵当権の特徴「占有を移転しないで」が活きてきます。
抵当権を設定し、住宅ローンを組んだ丙さんはA不動産を甲銀行に引き渡さずに、自宅を建てたりできるのです。
銀行は貸したお金が返ってくればいいわけで不動産はいりません。万が一お金が返ってこなかった際に、土地を売ってお金に換えることができればいいのです。
抵当権の登記を設定した債務者が借金を返済できなかった場合、抵当権はどうなってしまうのか。
また、キチンと借金を返済した場合、抵当権はどうなってしまうのか。
いわゆる抵当権のその後を解説したいと思います。
●債権者はどうしたらいいの?
債権者にとってはあまり起きてほしくない話ですが、借金が返済できなくなった場合どうするか。
この場合、結論を先に言ってしまうと、債権者は抵当権の目的となっている不動産を競売にかければいいのです。
この競売に関わってくる法律は、民法ではありません。『民事執行法』という法律が関わってきます。
競売は以下のような流れで進んでいきます。
①裁判所に競売開始決定の申し立て(民事執行法45条)
債権者は、必要書類をそろえて、裁判所に提出します。裁判所は提出した書類に不備がなければ、債権者のために不動産を差し押さえる旨を宣言しなければなりません。
②差押えの登記の嘱託(民事執行法48条)
裁判所の書記官は、抵当権が設定されている不動産を扱っている法務局の登記所へ差押えの登記を嘱託します。
「嘱託する」とは依頼するというような意味です。この嘱託により、登記事項証明書へ差押えの登記が記載されます。
③売却基準価格を決める(民事執行法60条)
現地調査を行って、不動産鑑定士が売却基準価格を決定します。売却基準価格とは、分かりやすくいうとオークションの最低落札価格と同じようなものです。
④入札(民事執行法64条)
不動産を買いたい人(買受人という)が入札をします。オークションと同じようなものです。
⑤売却許可決定(民事執行法69条)
一番高い値段を付けた買受人で、問題がないかを裁判所が判断します。
⑥買受人の代金納付(民事執行法78条)
買受人は裁判所に代金を納付します。代金を納付することにより不動産の所有権が買受人に移転します。
⑦債権者への配当(民事執行法84条)
裁判所へ納入した代金が債権者に配当されます。
競売開始から配当までの流れを説明するとざっとこんな感じになります。
●抵当権の登記をしていると楽できます。(民事執行法181条・188条)
抵当権の登記を設定していると、①の「裁判所に競売開始決定の申し立て」の際にかなり楽をできます。
基本的な必要書類は抵当権が設定されている不動産の登記事項証明書をもっていけばいいのです。
逆に言うと、抵当権を設定していても登記をしていない場合、債権者が①の申し立てを行うとすると大変です。
「債務名義」というものが必要になってきます。
債務名義とは、債権者が債権を請求できる権利を持っていることを証明した国家機関が発行した文書のことで、「確定判決」がその代表的なものです。
確定判決は、その名の通り、これ以上は争うことができない確定した効力を持つ判決です。
つまり、債権者と債務者の当人同士で抵当権は設定しているけれど抵当権の登記をしていない場合、まず債権者は債権を請求できる権利の有無を債務者と法廷で争い、勝訴して、初めて「裁判所に競売開始決定の申し立て」をすることができるのです。
●差押えの登記はどうなるの(民事執行法79条・82条・84条)
買受人は代金を納入した時に不動産を取得します。
そして、裁判所書記官からの嘱託により、債務者から買受人への所有権移転の登記と差押えの登記を抹消します。
また、納入した代金は裁判所から債権者に配当されます。
今度は債権者にとってありがたい場合、つまり債務者がキチンと借金を返済した場合です。
こちらの場合は争いが何もありませんから、裁判もありません、もちろん民事執行法も関わってきません。
借金が返済された証拠を持って行き、あとは法務局で法律(不動産登記法)に則った手続きをすれば、抵当権は抹消されます。(不動産登記法68条)
●最後に
宅建をはじめとした民法の参考書には抵当権についての記述はありますが、抵当権がどうなるかの記述をあまり見かけません。
その理由は、民法の分野ではなく、民事執行法や不動産登記法の分野になるからです。
抵当権のその後を知ってもらい、抵当権の理解に役立ててください。
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