2017年5月に成立した「民法の一部を改正する法律」が2020年4月1日より改正された民法が施行されます。
今回の改正は、1896年に民法が創設されて以来、約120年にわたり実質的な見直しがほとんど行われておりませんでした。約120年間の社会経済の変化へ対応を図るために実質的にルールを変更する改正と、現在の裁判や取引の実務で適用している基本的なルールを法律の条文上も明確にし、読み取りやすくする改正を行いました。
何がどう変わるのか、今回は不動産賃貸に関わってくると思われる部分をいくつか取り上げてみようと思います。
第622条の21.賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。2.賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。 |
今までの民法では敷金に関する規定がありませんでした。そこで今回の民法改正によって設けられました。
第1項は、敷金とはどんなものかという定義と返還についての原則を明文化したものです。( )部分を飛ばして読むと、読みやすくなります。
第1項第1号は、いつ敷金は返還されるかを明文化したものです。建物明け渡し後に敷金は返還するもので同時履行ではないことがわかります。
第1項第2号は、賃借権が譲渡された場合についてです。敷金は譲渡人である賃借人に返還されます。
第2項は、敷金に関する従来の考え方を明文化したものです。
敷金の定義や考え方は、あくまで現行民法に基づいた裁判例の解釈を明確化したものです。
実際のところ、ほとんどの不動産会社・貸主は敷金の意味を理解しており、契約書の条文には敷金返還についての時期を明記しておりますので、大きく変わったところはないと思います。
第621条 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。 |
通常損耗の回復義務について明文化したものです。( )部分を飛ばして読むと、読みやすくなります。
以前から通常損耗の回復義務についての紛争が多発しているため、判例に沿ってこの規定が設けられました。
気を付けてもらいたいのは、この規定は強行規定ではなく、任意規定であることです。
つまり、この規定と異なる特約も有効であるということです。
ですから、今回の改正によっても、特約で通常損耗等を賃借人に負担させることはできます。
ただしその特約は、賃借人が原状回復義務を負う範囲、内容が具体的に明らかにされていなければなりません。
賃貸契約のトラブルで一番多いのがこの、原状回復費用に関するものとなります。
また、東京都内では2004年10月から既に【紛争防止条例】を施行しており、上記内容について契約時に、
契約書を取り交わしておりますので、東京都内の賃貸契約については大きく変わることはないです。
【賃貸借住宅紛争防止条例】
https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/juutaku_seisaku/tintai/310-0-jyuutaku.htm
東京都以外の賃貸借契約は民法改正により、より一層の消費者保護の観点が強まり、原状回復費用について
改善されていくであろう。と思います。
第465の2 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であってその債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(保証人が法人であるものを除く。以下「貸金等根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。 2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。 3 第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、個人根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。 |
改正民法では、賃貸借契約の個人連帯保証人保護のための規定が新設されました。
そのため不動産賃貸借契約において連帯保証人を付けるときは、必ず、契約締結時に極度額(連帯保証人の責任限度額)を定めなければならないことになりました。
もし極度額が定められていなかった場合、その連帯保証条項は無効となります。
そして、改正民法施行後の賃貸借契約書の連帯保証についての条文も、「連帯保証人は、賃借人が本契約上負担する一切の債務を極度額●●円の範囲内で、賃貸人に対して連帯して保証する。」といった具合の条文の準備も必要となってきます。
実際のところ、現在の賃貸借契約において個人の保証人を必要とせず、保証会社の利用をお願いされる事が殆どです。
保証会社を利用することにより、賃貸人(貸主)は家賃の未回収が大幅に少なくなり、保証会社が立替、代位弁済を行う形となりました。
その為、昔は敷金を2ヶ月が主流だったものが1ヶ月に変わり、入居時の費用が下がり賃貸契約がしやすくなったのもあるのではないでしょうか。
(不動産の賃貸人たる地位の移転) 第605条の2 1.前条、借地借家法(平成三年法律第九十号)第十条又は第三十一条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。 2.前項の規定にかかわらず、不動産の譲渡人及び譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。この場合において、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転する。 3.第一項又は前項後段の規定による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。 4.第一項又は第二項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、第六百八条の規定による費用の償還に係る債務及び第六百二十二条の二第一項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する。 |
こちらも、今まであった裁判例を明確化したものです。
第1項は、賃貸人の地位の移転についての規定です。賃借権が対抗要件(登記等)を備えていた場合に、その不動産が譲渡されたときは賃貸人の地位が所有権譲受人に移転することが規定されています。
第2項は、旧所有権者と新所有権者との合意によって賃貸人の地位が留保することが規定されています。
留保とは、留めておくこと。つまり新旧の所有権者の合意によって、賃貸人の地位を移転させずそのままにすることができます。
第3項は、賃貸人の地位を移転した場合は所有権移転の登記がなければ、賃借人に新賃貸人であることを対抗(主張)することができないと規定されています。
第4項は、敷金返還債務、必要費・有益費の償還債務も譲受人又は承継人に移転することを定めています。
今回は、不動産賃貸に関わってくると思われる部分をいくつかピックアップしました。
2020年施行される民法の改正部分はまだまだ沢山ございます。
民法改正については法務省のHPにて確認が取れます。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_0021144.html
また、注意が必要な点としては2020年4月1日からこの法律が全てに適用されるわけではないという事です。
2020年3月31日までに契約をしているものについては、この限りではなく、旧民法の内容が適用されております。
4月1日以降に契約を行ったものについては、改正された民法の適用があり、
今後更新などをした際に改正された民法へ変更されるものとなりますので
充分に注意をしてください。
その他特に、『債券』に関する部分はかなり変わりました。
どこがどう変わったのか、それはまた別の機会に。
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